小説簡易まとめの項でもちらっと触れた乙一という作家について語りたいと思います。
とにかく私が本格的に本を読むきっかけとなった作家です。
「ZOO」という短編集は乙一作品の分類でいえば「黒乙一」に分類されるものが多く収録されています。
「カザリとヨーコ」「陽だまりの詩」なんかはラストに希望を持たせるような形で解決を見るので「白乙一」寄りですが、とにかく「黒乙一」ってのは人が陰惨な死に方をするので、初めて読むにしては人を選ぶ本だったと今更ながら思います。
そういうのにもある程度の耐性があったので、難なく読むことが出来、またこれが現在の私に大きく影響することになったわけです。
「叙述トリック」というものに本格的に触れたのはおそらくこの本。
それまでは本が好きとはいえど、いかんせんそんなものには出会わない程度の本好きだったため、これに出会った時の衝撃は大変なものだったわけです。
物語のどんでん返し、というか読者の意表を突くための表現に、多感だったころの私は多大なるカルチャーショックを受け、以降現在に至るまで乙一をリスペクトするようになるわけですね。
だからつまり、最初に東野圭吾だとか西尾維新だとかあの辺の作家さんと出会っていればそっちの方に傾倒していたと思います。
今ではミステリというジャンル自体が好きですがやはりその中でも乙一だけは私の中で別格の存在となっています。
それから「白乙一」の作品についてですが、あの最後に少しだけ心が温かくなるようなラストにとても惹かれました。
世界に日が差しているそういう当たり前の光に気付かせられるような、綺麗で透明感のある物語だと思うのです。
「天帝妖狐」なんかはどちらかといえば「黒」の要素が強いですがラストはとても綺麗でせつない言葉で締めくくられているし、「カザリとヨーコ」は虐待の話だけど最後には自分も「なんでもできる!」って気分にさせられる。
そういう、心を少しだけ柔らかな光で照らしてくれるようなそういう作品に強い憧れがあります。
完全に趣味の範囲で時々創作をしますが、根底にはそれが強く残っているように思います。
乙一の文庫になっていて手軽に読める短編集だと「ZOO」「天帝妖狐」「平面いぬ」「失はれる物語」「GOTH」、その他角川スニーカー文庫で刊行されている物などがありますが、私が乙一を読んだことがない人に薦めるなら「失われる物語」ですね。
「白」の傾向が強いのでとっつきやすい短編集だと思います。
乙一を知らない方は是非。
乙一について語ったのでついでと言っては何ですがこの方たちについても書いておこうと思います。
中田永一と山白朝子
このお二方はメディアに顔が出ていないことと、その作風から「正体は乙一ではないか」と憶測されている作家さんです。
確かに最後に心が少し暖かくなるような作品を多く書かれていて、そのあたりが根拠になっていたりするようです。
その他にも書店のPOPやプロフィール、作中の地名や言葉も根拠に挙げられることがありますが、やはりどれも憶測の域を出ません。
私の意見としてはお二方=乙一という説は推していません。
最大の理由としては明確なソースもないのに「そうだ!」と断定してしまうのは私自身納得が出来ないからであり、また仮にこの説が本当だとしたら乙一なりに考えあってのことだろうから無理に同一人物だと吹聴するのは無粋なことだと思うし、違ったら違ったでお二方に大変失礼だと思うのです。
モラルのないファンなんかが「乙一さんですよね?名前が変わってもファンですよ(*^▽^*)」みたいなファンレターが中田さんや山白さんの元に届いてしまったらと考えるとぞっとしますし。
これもまた行き過ぎた仮定の話ですが。
どっちにしたところで好きな作家さんが二人増えるか、好きな作家さんの作品を読む機会が増えるかだけの違いなので、別に知ったこっちゃないってのが本音です。
でも作風が乙一と似通っているのは上記のとおり事実なので、乙一は好きな方は気に入ると思います。まだ読んだことがないって方は是非お手に取ることをお薦めします。
個人的には中田さんの「百瀬、こっちを向いて」は百瀬がホントに可愛いのでオススメ。
それでは今回はこの辺で。
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